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諫早の在村蘭方医木下元俊

諫早の医師で木下元俊(のち安永元俊)という医師がいます。幕末にボードインに学んだ蘭方医です。薬箱や外科道具、明治初期の医学書などの医学資料は、長崎歴史文化博物館に寄贈してあります。光冨博さんの研究によって知ったので、諫早の御子孫の安永産婦人科へ行って、いろいろお話をおうかがいして、長田村のもとのお墓まで行ってきました。安永産婦人科の宮下明子理事長には、大変お世話になりました。またお隣が犬尾内科で、犬尾博治先生とも、江戸時代の医師、犬尾文郁などについてお話をお伺いしてきました。50年前の杉本勲さんらの研究のときだけでなく、つい10年ほど前まで、肥前に在村蘭学はないと思われていましたが、次々と新たな蘭方医が発掘できています。やはり、どの地域にも蘭学は行き渡っていて、地域独自の発展を遂げていました。 木下元俊     (天保六年~明治三九年、一八三五~一九〇六)    幕末・明治期の諫早蘭方医  木下元俊は、代々医家の四代目木下元俊の子として、天保六年(一八三五)に長田村(現諫早市)に生まれた。清可軒という華道の雅号もある。幼時に漢学を好み、近くの医師...山本元胤に内科・外科を学んだあと、佐賀藩医学寮にはいり、西洋内科・外科・眼科学を学び、安政五年(一八五八)四月二一日に、二八歳の外科医として医業免札(開業免許)を得ている。墓碑銘によれば、ポンペの後任として長崎に来日したオランダ陸軍一等軍医のボードイン(第一次在日期間、文久二年・一八六二~慶応二年・一八六六)とその後任のオランダ海軍予備軍医のマンスフェルト(在日期間、慶応二年・一八六六~明治一二・一八七九)に西洋医学を学んだとある。しかし、元俊は慶応二年に帰郷しているので、慶応二年に来日したマンスフェルトに学ぶ機会はほとんどなかったとみられる。   帰郷した元俊は、郷里の白濱村(現諫早市)で木下医家五代目として外科医を開業した。誠実で実直な人柄であり、西洋医学を修めたことが評判となって、遠近より患者が多数来診し、また旧領主諫早家の侍医を二〇年もつとめることができた。  元俊は、明治二五年(一八九二)に安永家に養子に入り、以後は安永元俊として医療を続けた。明治三九年(一九〇六)一月一〇日没。七二歳。安永院徳圭元俊居士。墓は、はじめ安永家菩提寺である諫早市の徳養寺にあったが、現在は、諫早市白浜町の安永家墓地にある。なお元俊の生年は、墓碑銘によれば天保六年、『医業免札姓名簿』によれば天保二年となるが、墓碑銘に従う。  元俊の残した諸記録や外科道具類は、のちに子孫の安永俊夫氏により、長崎歴史文化博物館に寄贈された。元俊が長崎から持ち帰った医学史料の内、(一)甫氏薬性論巻之四、(二)抱氏病理内科各論、(三)抱氏病理内科各論の三冊は、筆写者は不明であるが、甫氏(ポンペ)と抱氏(ボードイン)のそれぞれの講義録である。(三)の「心臓肥大、ヒープルトロピー、ファンヘット、ハルト」の項目には「病論、心臓之真症肥大ハ筋繊維ノ増息シテ豊厚ナル者也、假性ノ肥大ハ組織間ニ異物アリテ肥大スル者アリ」などと記されている。このほかに心臓病についての記述がある。元俊が使用した往診用薬籠は、四段の引き出しがあり、苦丁(くうてい)、吐(と)根(こん)酒、酒酸(酒石酸カ)、磠(ろ)砂(しゃ)などの薬品が残っている。  明治一五年(一八八二)二月の『治験録』には、茯苓、芍薬、葛根、六方酒、老水、モルヒネなどの、漢方薬と西洋薬をそれぞれの病気と症状に応じて調合していた。  『治験録』には総計四五七人の患者の名前と出身地も記されている。地元の白浜・長田地区(いずれも現諫早市)からが最も多く、旧諫早領や現在の佐賀県太良町、塩田町などからも元俊のもとに通う者もいた。  元俊は社会奉仕活動も積極的に行った。元俊屋敷東側にある八幡神社への石灯籠寄進や明治二四年に北高来郡(現諫早市)の郡会議事堂を建設寄付のほか、明治三五年には長田尋常小学校増築費として三〇円を寄付した。元俊は、池坊流の生け花を嗜み、京都の六角堂頂法寺住職専正から免状を得ている。  木下医家は初代元俊雅丈が、宝暦五年(一七五五)に家伝薬極秘丸散之秘法を主膳なる人物から授けられたのが始まりで、二代木下元俊は戒名が即翁元俊信士という医者で、三代木下元宿は安永家から養子に入り、天保四年(一八三三)七月一四日に没。戒名は即心元宿居士。四代元俊は、安政六年(一八五九)に六〇歳で白濱村に住んで内科の医者をしていた。四代元俊の子が五代元俊であった。 【参考】光冨博「蘭方医木下元俊の研究」(『諫早史談』四二号、二〇一〇) 写真は、木下元俊肖像、抱氏病理内科各論(光冨論文より)、明治初期の往診用薬箱(光冨論文より)、明治一五年の『治験録』(光冨論文より)、


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