新刊紹介:藤倉一郎『イブン・ナフィス』(近代文藝社、1000円+税)
◆医学史研究者でもこの人の業績を知る人は少ない。イブン・ナフィス(1213?~1288)という13世紀アラビアの医師である。 ◆ヨーロッパ医学史において、血液循環をめぐる研究は、ローマ帝国時代の解剖医ガレノス(129?~200?)が発表してから、その学説は、イタリアのコロンボ(1516?~1559)などにより修正され、17世紀になってイギリスのハーヴェイが発表した『動物の心臓ならびに血液の運動に関する解剖学的研究』(1628)によって、正しい血液循環の理論が確立した。 ◆しかし、じつは、ヨーロッパ中世の時代におけるアラビア医学の水準は、ヨーロッパ医学よりもはるかに高水準で、イブン・ナフィスは、ガレノスの学説とアラビア医学のカリスマ的医師アビセンナの血液循環説を否定し、ハーヴェイの血液循環説に匹敵する研究をしていたのだった。 ◆藤倉一郎『イブン・ナフィス』(近代文藝社、1000円+税、2017.2,1発行)が、ほとんど無名だった偉大な医学者の業績をはじめて明らかにしてくれた。 目次は、... 1.はじめに、 2.ガレノスの生理学理論、 3.16世紀肺循環の発見、 5.13世紀イブン・ナフィスの肺循環の発見、 6.イブン・ナフィスの時代背景、 7.イブン・ナフィスの生涯、 8.イブン・ナフィスの著作、 9.イブン・ナフィスの肺循環の記述、 10.イブン・ナフィスは解剖をしたか?、 11.自習僧、 12.ナフィスの肺循環の理論はなぜ世界で認識されないか。 13.おわりに 知られざるアラビア医学の世界探究のおもしろさを体験できる本である。